- スイスフランショックの原因
- スイスフランショックの被害
スイスフランショックとは、スイスの為替政策の急な変更により、スイスフラン相場が荒れに荒れた過去の出来事です。スイスフランショックの原因とその被害についてまとめておきます。
もくじ
スイスフランショックの原因
<スイスフランショック発生までの簡単な流れ>
- スイスは自国通貨高を避けるため、2011年から「スイスフラン売りユーロ買い」の無制限介入を実施していた。
- 2015年1月15日その無制限介入を突如として撤廃。
- 撤廃の前触れが全くなかったため、スイスフラン絡みの相場が大混乱に。(スイスフランショック)
2015年1月15日に世界中の市場を大混乱に陥れたスイスフランショック。
その原因について、できるだけわかりやすくまとめていきます。
スイスフランショックの原因
<スイスフランショック発生までの流れ>
- 当時、スイスフランは安全資産と見なされ買われていた
- スイスは輸出で儲かっている国なので自国通貨高の状態はあまりよくない
- そのため、「スイスフラン売りユーロ買い」の無制限介入で自国通貨高を防いでいた
- 結果、スイスが国として保有するユーロ建ての資産が極端に増えてしまった
- ユーロが下落基調だったため、国の資産がどんどん減っていく状況に
- その状況に耐えられず、無制限介入を撤廃
スイスフランショックが起こる以前のスイスの状況
2008年のリーマンショック、2010年からは欧州債務危機といった金融危機が起こった結果、リスク回避の観点から安全資産である円やスイスフランへと投機マネーが流入していました。
日本もそうですが、輸出で儲かっている国(GDPに対する輸出依存度が高い国)は、自国通貨高が経済に悪影響を与えます。
スイスは日本よりもGDPに対する輸出依存度高いため、自国通貨の上昇を抑える為替政策をとっていました。
スイスの中央銀行であるスイス国立銀行(日本だと日本銀行にあたる銀行)は、スイスフランの上昇を抑えるため、2011年9月からスイスフランに対するユーロの下限(ユーロスイス相場)を1.2000として無制限介入を行っていくという為替政策をとっていました。
チャート的に言うと、EUR/CHF(ユーロスイスフラン)のレートが1.2000まで下がった場合、スイスが国として「スイスフラン売り、ユーロ買い」という介入をしてレートを上げると宣言していたことになります。
※EUR/CHFのチャートはEURが基準のチャートになるので、CHFが買われるとチャート的には下がることになります。
自国通貨を売って他国通貨を買うという介入は、他の国から売るための通貨を調達する必要がないため、比較的簡単に行えます。
この場合、「スイスフラン売り、ユーロ買い」の介入は、スイスにとっては自国紙幣を刷り続ければよいだけになるため、理論上は無制限に介入し続けることが可能であったといえます。(ユーロを買うための資金源が枯渇する心配がないため)
無制限介入後のスイスの状況
2011年9月からの「スイスフラン売り、ユーロ買い」の無制限介入の結果として、スイス中央銀行のユーロ建ての資産が大きく膨らむこととなりました。
これは、ユーロが下落するとスイスの国としての資産が減少することを意味します。
当時ユーロは断続的に下落していたため、スイス国民の間でも問題視されるようになっていました。(購入したものがどんどん値下がりしている状態のため)
このような状況でECBが国債買い入れによる量的緩和策を導入するとの見通しが強まり、ユーロの更なる下落の可能性が高まります。
結果、スイスはこれ以上の資産の減少に耐えられなくなり、無制限介入を停止することに。
2015年1月15日にスイス中銀は対ユーロで設定していた1ユーロ=1.2000スイスフランの上限を撤廃すると発表します。(介入の停止の発表)
この発表が何の前触れもなく突如として行われたため、市場は大混乱に陥ることになります。(スイスフランショック)
スイスフランショックの発生
<スイスフランショック発生後の簡単な流れ>
- 投資家はスイスの無制限介入を前提に、「ユーロ買いスイスフラン売り」のポジションを大量に持っていた
- 無制限介入の停止が突如として発表されたため、その瞬間からユーロ売りスイスフラン買いが一気に進行
- 市場にスイスフランを売りたい人がいないため、強制ロスカットもうまく作動しないまま、スイスフラン買いが進行
- 結果、個人で破産するレベルの借金を負う人が続出、業者もいくつか潰れる事態に
スイスフランショック前の市場参加者の動向
スイスフランショック前の為替市場では、EUR/CHF(ユーロスイスフラン)の1.2000というレートが絶対的な防衛ラインだったため、市場参加者に利用される状況となっていました。
その手法は、EUR/CHF(ユーロスイスフラン)の1.2000下限付近で買いポジションを構築し、スイス中銀の「スイスフラン売り、ユーロ買い」介入での利益を狙ったものでした。
※いわゆるレンジの下の方で買って、レンジの上の方で決済するという手法です。
ただ、EUR/CHF(ユーロスイスフラン)は変動幅が極めて小さい状況でした。(3年以上1.2000~1.2500のレンジ)
そのため、この手法で大きく稼ぐためには大量のポジションを持つ必要がありました。
投資家の中には大量のポジションを持つためにハイレバレッジを利用している人も多く、結果としてスイスフランショック時に大損害を受けることになります。
スイスフランショックの発生

2015年1月15日木曜日は、東京時間から日経平均先物、ドル円ともに上昇していました。
下落していた原油価格も上昇し、リスク回避ムードが一旦落ち着いついていたといえます。
そんななかで、18:30頃に1つのニュースが流れます。
「スイス中銀がEUR/CHF(ユーロ/スイスフラン)の1.2の防衛ラインを撤廃」
EUR/CHF(ユーロ/スイスフラン)は大暴落。
スイスフラン絡みの通貨ペアは値段がつかず、市場が大混乱に陥りました。
大量の「ユーロ売り、スイスフラン買い」で、チャートソフトが壊れたのかと勘違いするレベルの垂直落下。
スイスフラン絡みの通貨は、一瞬で1,500pips以上も値が飛び、その後もたった20分間で3,500pips以上も値が動くことになります。
この間、投資家の注文はロスカット注文を含めほとんど約定していません。(スイスフラン買いにぶつかる売り注文がマーケットにほとんどないため)
※ちなみに、これはユーロから見ると大暴落ですが、スイスフランから見ると大暴騰にあたります。なので、EUR/CHF(ユーロ/スイスフラン)が大暴落したというのと、スイスフランが大暴騰したというのは同じ意味になります。
これを受けて、日経平均先物やダウ先物などの株価も大きく下落。
そして、追証(おいしょう)によって多額の借金を負う人が続出し、FX業者もいくつか潰れることになります。
追証とは
「追証(おいしょう)」とは、急激な相場の暴騰や暴落で口座残高がマイナスになった場合、不足のマイナス分をトレーダーが追加で支払わなければならないという仕組みです。
もし支払わなければ、裁判所命令での銀行口座の凍結、資産の差し押さえなどが執行されることになります。
なお、すべての日本のFX業者には「追証」を定めた規定があります。(FXで借金を負う可能性があるということ)
スイスフランショックの被害
国内FX業者の利用者の被害
→ 追証によって借金を負う人が続出
海外FX業者の利用者の被害
→ ゼロカットにより口座残高が0になっただけで済む
レートが急激に動いたため、投資家による逆指値注文(ロスカット注文)やFX会社による強制ロスカットが、本来執行されるレートよりもはるかに離れたレートで執行されるという、投資家にとっては予期せぬ事態に陥りました。
これは強制ロスカットを執行したにもかかわらず、口座残高を上回る損失が出てしまったということです。
EUR/CHF(ユーロ/スイスフラン)で直接やられたという日本人のトレーダーは少なかったようですが、CHF/JPY(スイスフラン/円)やUSD/CHF(米ドル/スイスフラン)などスイスフラン絡みの通貨を取引していた方は大きな被害を被ることになりました。
国内FX業者を利用していた人の被害
<国内FX業者の利用者の被害>
追証によって借金を負う人が続出
国内FX業者で口座残高を上回る損失が出た場合には、追証(おいしょう)が発生します。
そのため、口座残高を超える分の損失について、顧客は追加で入金を求められる事態となりました。
国内FX業者の統計によれば、この時の「追証」の総計は、個人顧客が19億4800万円(1137件)、法人顧客が14億4000万円(92件)でした。
つまり、国内FX業者を利用していた個人トレーダーは、口座資金が全て無くなったうえに、さらに一人平均170万円の「追証」がきたということです。
すぐに支払えないくらいの「追証」が発生したために、大きな借金を抱えて再起不能になった人も大勢いると思われます。
海外FX業者を利用していた人の被害
<海外FX業者の利用者の被害>
ゼロカットにより口座残高が0になっただけで済む(追証はなし)
海外FX業者で口座残高を上回る損失が出た場合には、ゼロカットシステムにより口座残高が0になるだけです。(追証は発生しない)
そのため、海外FX業者を利用していた人の被害は元々あった口座残高に限定されました。
ゼロカットシステムは、入金額以上の損失は業者が負担するというシステムのため、当時大手だったアルパリというイギリスの海外FX業者が破綻しました。
ゼロカットをきちんと守ったために潰れてしまったのです。
海外FX業者で取引をしていた日本人の個人投資家のうち、一部の不誠実なFX業者を除き、このスイスフランショックの暴落で追証を請求された人はいませんでした。
すべてゼロカットシステムのおかげです。
参考:デメリットなし!海外FXのゼロカットシステムを理解する
スイスフランショックのまとめ
国内FX業者の利用者の被害
→ 追証によって借金を負う人が続出
海外FX業者の利用者の被害
→ ゼロカットにより口座残高が0になっただけで済む
スイスフランショックの原因とその被害についてまとめました。
このスイスフランショックではっきりしたことがあります。
それは、ゼロカットシステムのないFX業者を利用していた場合、「口座残高以上の損失を追う可能性が常にある」ということです。
一般的に国内FX業者の方が、海外FX業者よりも安全というイメージがあると思います。
しかし、現在においても国内FX業者で「ゼロカットシステム」を導入する会社は一社もなく、金融庁においても「ゼロカットシステム」を推進するような動きはありません。(あまり意味のないレバ規制には熱心です。)
そのため、スイスフランショックのような万が一の事態に備えるのであれば、海外FX業者を利用したほうが安心ということが言えます。
